発達障害の症状が運動で改善! 運動療育の効果とは

発達障害の子どもさんの抱える障害の一つに、体を動かすことがうまくできない傾向があります。

それは特性の中にある、イメージする力が少し劣っていることが原因ともいわれています。

こう動かしたいというイメージと身体の動きが一致して初めて、思い通りに身体を動かせるわけですが、それがうまく行かないわけです。

ここでは、身体を動かすことが苦手なお子さんにやってほしい、運動について触れていきます。

手先が不器用な子どもさんへの指導

ハサミできれいに紙を切る。小さいものをつまむ。本のページをめくるといった手先を使う作業がうまく出来ない子どもさんがいます。

練習すればできるようになると、何度もやらせみても、なかなかうまくできるようにならないのには、他にも理由があるようです。

一つは感覚が鈍いことです

例えば、子どもさんに目をつぶってもらって、手の指の1本を触って、「いま、どの指を触ったか」聞いてみましょう。

感覚が鈍く、手先が不器用な子どもさんの場合、どの指を触ったか答えられないことがあります。

指ごとの感覚が十分に育っていれば、どの指かわかるのですが、触覚が手の指ごとに分かれていない状態になっています。

そして、手先が上手に使えるようになるために、実は、細かい操作の練習の前に、まずは身体全体を使った運動を行うことが効果的なのです。

大きな動作(粗大運動)を十分に行い、身体を動かすことに対しての土台のようなものを作ると考えてください。

この粗大運動と合わせ、細かな動作(微細運動)を行うことで、より手先の不器用さを克服できるようになってきます。

運動をさせる際には、子どもさんが楽しくできることが、とても大切です。嫌々ながらやっても、学ぶべき動作ができず、効果が半減してしまいます。

運動療育を取り入れている施設などを検討してみるのもよいでしょう。

具体的な運動の例

では、粗大運動にどんなものがあるか、まずはご紹介しましょう。粗大運動は日常生活においても基本となる運動です。また、複数の箇所を同時に動かす「協調運動」も必要になってくるので、練習を重ねることで体の動かし方が少しずつ分かるようになってきます

・ビーチボールを使って遊ぶ
・大きな玉を転がす
・後ろ向き歩き
・ゴム紐またぎ
・くぐる運動
・ジャングルジムなどの遊具
・キャッチボール  

つぎに、手先を使う微細運動の例をご紹介します。

・洗濯ばさみを使って薄いものを挟んだり、握って取ったりする
・ひも通し
・型抜きパンチを使った遊び
・折り紙
・紙ちぎり
・シール貼り
・貼り絵
・はさみで紙を切る
・ピンセットでものを掴む
・箸つまみ(豆などつかみにくいもの使う)
・ねじ回し
・コマ回し
・おもちゃのぜんまい車での遊び
・ぜんまいを巻くおもちゃ
・ビンのフタを開ける
・ブロック遊び
・ジェンガ
・その他の手遊び

ボタン掛けや、ひも結びも良い練習になります。ただ、難しそうなときは、途中まで手伝ってあげて、最後だけ、子どもさんにやらせてみましょう。大切なのは「できた」という体験です。成功体験は自己肯定感や自信につながるので、小さなものも含め、何度も何度も経験できるよう、体を使ってできるメニューを作りましょう。

ほとんど全ての運動は動作模倣です

あらゆるスポーツにいえることですが、上手い人の動きを真似ることが、まさに運動がうまくなる秘訣です。

発達障害の子どもさんは、この動作模倣が苦手な場合が多く、ダンスや手遊びでもうまくできないことがあります。

周りの動きについていけなかったり、真似できないのでじっとして動かなかったりすることもあるようです。

幼少期の運動会などで、子どもさんがダンスがうまくできなかったという経験をしている親御さんもいらっしゃるのではないでしょうか。

ですが、この動作模倣。いろいろな要素が組み合わされたもので、特性のある子どもさんには難しいものです。

では、動作模倣ができるようになるために、どんな要素が必要なのでしょう?

・そもそものやる気。目の前の人と同じ動作がしたい。相手とのある種のコミュニケーションをしたいという気持ちや意欲

・自分の動きを客観的にイメージする力

・運動能力が伴っている(基本的動作、協応動作など)
・動作を止める力(体の動きを調整する能力)

・動きを見分ける力

・視覚記憶の力

これらの要素の組合せで、動作模倣ができるようになります。これらの力をひとつひとつ育てることで、ようやくできるようになるものなのです。

動作模倣ができるようになることでの変化

動作模倣は、目の前の人と同じ動きをしたい。相手とつながりたい(相手に意識を向ける)という気持ちが必要です。特に発達障害の子どもさんは、そのような気持ちがないと、そもそも真剣に取り組むことが難しいもの。

ですが、この気持ちが持てるようになってくると、「相手との一致、一体感」のようなものを感じられるようになり、対人関係にもよい影響があることがわかっています。

動作模倣の力をつけるために

・模倣して欲しい動作を集中してみる練習
・相手の動作を模倣したいという気持ちを持ってもらうよう工夫する
・できるレベルに合わせて模倣を複数の動作を組み合わせる
・大人が子どもの動作を真似る(自閉スペクトラム症に効果あり)。大人の動きを子どもさんに見せることで、相互に模倣することになり、効果が大きいと言われています
・首から上の部位の模倣の方が容易で理解されやすい
・目と手の協応力を育てると、模倣ができるようになっていく
・模倣のファーストステップとして、両手をつないで左右に動かすような遊びを取り入れる
・道具を使った模倣を取り入れる

同じ動きをすることを、一緒に取り組むことは、協応した体の動きだけでなく、相手の動きに集中することから、相手を見る練習にもなります。

これが、まさに対人関係の基礎的な要素と大きく関係します。また、動作模倣は、相手を見て、知るというプロセスも含まれるので、発達障害に関連する多くの面でとても大切な練習になるものです。

姿勢が保てない子どもさんを運動面で支援できること

いくつかの要素がありますが、姿勢保持ができない子どもさんの場合は、「体の動かし方の把握=ボディイメージ」、「姿勢保持力」の発達が必要になってきます。

ボディイメージを育てるために

まず、推奨したいのが、動作模倣の練習です。そして、粗大運動なども効果的です。

姿勢保持力を鍛えるには

平均台や、飛び石ジャンプ、トランポリンなどは効果的です。高這い(膝と腰を上げてのハイハイ)も良いでしょう。

どうしても運動が苦手というお子さんには

運動が苦手というだけなら、勉強で得意なことがあれば良いと思うかもしれません。ですが、運動と脳の成長は非常にシンクロしていて、発達全般に影響を与えるのです。

とくに幼少期から小学校低学年で、「運動感覚」を養っておくと、情緒安定などにも好影響を与えると言われています。

入学前の幼少期に身につけておきたい運動感覚

・位置の感覚(手足がどこにあるのか)
・動きの感覚(ボール蹴りなど)
・力の感覚(おしくらまんじゅうや、大玉転がしで養える)
・回転感覚
・逆さの感覚、高さに対する感覚、速度に対する感覚、バランス感覚(トランポリン、体操など)

小学生になったらできるようになっておきたい運動

・ハイハイ
・高這い
・平均台歩き
・跳び箱
・タイヤ渡り
・片足立ち
・マット運動
・後ろ向き歩き
・坂道歩き
・鉄棒ぶら下がり
・ジャングルジム
・縄跳び
・そり滑り
・サッカーのドリブル
・竹馬
・鬼ごっこ

例を上げてみると、友だちとの遊びや公園の遊具で自然とやっていたことばかりです。運動系の療育施設では、これらの運動の多くを入学前に経験することもできるところがあります。

小学校に入るタイミングで、運動はできるようになっているのは、子どもさんの自己肯定感や自信にも繋がるでしょう。

発達障害児には、ぎこちない体の動きになってしまう子が決して少なくありません。それで、仲間はずれにされたり、いじわるの対象になってしまうこともあります。

そうなると、なおさら子どもは自尊心が傷つき、将来に影響する「できない自分」という姿を自分で自分に印象づけてしまうかもしれないのです。

具体的な運動が苦手なこのための練習しておきたい運動とは?

●協調運動を高める

・なわ跳び
・スキップ
・リトミック
・サッカー(目でボールを追いながら足で蹴るなどの動き)

●ボディイメージを高める

・全身模倣
・大玉転がし
・ゴム紐またぎ
・くぐる運動
・後ろ向き歩き

●即時反応力を高める

・リトミック
・即時模倣

また、グループでルールを決めた運動等は、ルールを理解して行動することの練習にもなりますので、運動を行うことは、療育や成長にとてもよい影響を与えてくれます。

情緒不安定な子どもさんにも運動は効果があります

発達障害の子どもさんの個別支援計画などに「情緒の安定」を項目に入れている事例は多くあります。情動表現が安定していることで、突然泣き出したり、怒ったりすことも減少してくるようになります。

情緒を安定させるために、実は運動が効果を発揮してくれます。

情緒安定に関連する運動のメリット

・運動が発散的活動になる。

  体を動かしたり、全身をつかった活動と、リラックスできる音楽などを組みわせることで気持ちをコントロールする力、その場に合わせたエネルギーの発散の仕方を養うことができます。

・ボディイメージを高める

  ここでも、出てきましたね。ボディイメージの向上は、情緒安定にも効果があります。自分の体を知る動作を取り入れると良いでしょう

運動での「できた」の体験は、前頭葉を鍛える効果があることがわかっています。

前頭葉は理性を司っており、感情をコントロールする上で、とても重要な役割を持っています。

この前頭葉の発達によって、感情を司る扁桃体の動きを抑制する働きも向上します。

その結果、情緒が安定しやすい脳を育てていくことになるわけです。

運動で多動を減らすことができる!?

動きすぎている=多動ですが、動くたびに注意をしなければならなくなり、なかなか思うように落ち着かせるのは簡単ではありません。

動いてしまうのであれば、その動きを運動に変換してあげるだけで、多動を減らすことができます。

・前庭感覚(揺れ)に働きかける運動

 ゴロゴロと寝転がって転がる運動、トランポリン、シーソー遊びなどがあります

・ボディイメージを高める運動

 またしても、出てきました。発達障害の多くの特性の改善に、ボディイメージを高めるのは効果的です。

・バランスをとる運動

 片足けんけん、かかと歩き、つま先歩き、膝立ち など

・移動する運動

 ハイハイ、高這い、にわとり歩きなど

・協調動作

 うさぎになったつもりで飛ぶ、鳥になったつもりで手を動かしながら走る、なわ跳びなど

その他にも、リトミックも効果的ですが、体を動かしながらのものが多動を減らしてくれます。音楽に合わせて、歩いたり、走ったり、スキップしたりするのはとても良いようです。即時反応の要素も入っているので、なお効果が見込めます。

また、ボール遊びも効果が期待できます。

キャッチボール、転がしっこ、蹴りっこ、ボール回し、ボーリング遊びなどがあります。

パニックをコントロールする

パニックは自己コントロールができるようになることが、とても大切です。そのために、運動活動が、やはり効果があります。

前述の多動のコントロールと、やることはほとんど同じです。

・リトミック
・全身模倣運動あそび
・ボール遊び などがコントロールを身につけるトレーニングになります。

まとめ

運動は脳の発達を促す活動です。「できた」の体験によって成長する脳の部位は、勉強ができるようになる部位とほとんど同じです。

また、文中でもお伝えしたように、「できた」体験は前頭葉の発達を促すので、精神面での安定に大きく寄与します。

とくに幼少期からほかの療育と併用すると、特性の改善に繋がります。親御さんとしては、ご自分の子どもさんが発達障害であることを認めるのはつらいことでしょう。また、診断を受けたときには、ショックも受けるとは思います。

ですが、疑いがあるとしたら、そう感じたタイミングから療育は始めていくことが、とても大切なことは多くの親御さんや専門家が実感していることです。

その中に、運動を入れ込むことで、成長の速度を早める可能性があるといえるでしょう。親御さんは一人で抱え込んでしまうこともあるかもしれませんが、専門家の知識とサポートを遠慮なく受けることが、子どもさんの将来を大きく変える選択になります。

この記事を書いた人
出版社での編集者としての経験を活かし、あらゆる分野の情報発信をしている。リサーチ、分析、整理を得意とし、わかりやすく伝えることを信条としています。四人兄弟の長男で、兄弟のうち二人が重度の知的障害者+自閉スペクトラム症。自身もADHDの注意欠陥障害・自閉スペクトラム症のグレーゾーンとの診断を受けている。その経験から、現在は、発達支援事業にも積極的に関わっている。

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