


女の子の発達障害では少し特別な対応が必要なことも

不登校は発達障害の特性が要因かもしれません

目次
特性の定義は「人とのコミュニケーションが苦手で、強いこだわりがある」というもの。
このような特性があると、自閉スペクトラム症または自閉スペクトラム障害(ASD)という診断名に統合されました。
自閉スペクトラム症がある場合、そのうち40%~60%程度が知的障害もあることがわかっていますが、知的発達の遅滞があるかどうかではなく、「人とのコミュニケーションとこだわり」に関する特性のあるなしで診断されることになっています。
仮に知的障害がなくても、自らの特性で、本人が「生きづらさ」や「困った」と感じています。むしろ知的な面では問題ないことでのトラブルも多く、下手に話せたり、勉強ができることで適切なサポートが受けられないこともあります。
現在の自閉スペクトラム症の定義の変更により、その範囲は広くなり、その支援方法は、子どもさんの持っている特性によって大きく異なってきます。
この記事では、ASDの子どもさんが持っている特性について、まずは紹介していきます。
診断基準を要約すると、下記の1についてはすべてを満たしていて、かつ2については2つ以上当てはまることがASDか否かの診断の目安になります
A 他人との情緒的なコミュニケーションが築けない。相手の気持をくみ取れない。感情の共有ができない。会話が噛み合わない。人との適切な距離感が保てないなどの特性がある
B 非言語的コミュニケーションができない。相手の表情を理解できない。アイコンタクトができない。ボディランゲージが理解できない、あるいは使えないなどの特性がある
C 年相応の友人関係が築けない。人への関心が薄いなどの特性がある
A 同じ動作を繰り返す。言葉をオウム返しする。一人遊びなどのときに特定のものを並べるなど、同じ行動を反復して行う
B 同一性へのこだわり。変化を嫌う。いつもと違う、習慣と違う、パターンと異なることに強くこだわりを示す
C 集中するものが限定されていて強い執着がある。興味を示すものが異常なもの
D におい、音、光、痛みなどに敏感、あるいは鈍感
さらに、
早期から症状が見られる
生活していく上で障害になっている などの要素から総合的にASD化を診断します。
では、具体的な特性について説明していきましょう。
乳児期に、
おむつが濡れても泣かない
お腹が空いてもあまり泣かない
また、人見知りもあまりしない傾向が見られる。
後追いをしないという症状があるようなら自閉スペクトラム症の特性かもしれません。
実際、自閉スペクトラム症と後に診断された子どもさんの親御さんからは「手がかからなかった」「赤ちゃんのときは育てやすかった」という話を聞くことも多いのです。
なぜなら、自閉スペクトラム症の子どもさんは、人に対して関心が強くないからだと言われています。
一人でいても泣かない。親がいてもいなくても反応が変わらない。赤ちゃんの時期に見られる愛着行動も少ないといった傾向があります。
人は相手の感情を読み取るときに、自然と相手の表情を見ているもの。ですが、自閉スペクトラム症の子どもさんは、その読み取りがうまくできません。
自身の感じている、怒り、悲しみ、喜びなどもうまく表現ができないこともよくあります。
そのため、本来は悲しい場面なのに、ニヤけてしまったり、嬉しい場面なのに不機嫌な表情になったりすることがあります。抱いている感情と表情がズレているのです。
また、自閉スペクトラム症の子どもさんの問題行動として、他人や自分を傷つける行為があります。
自分をたたいたり、頭を壁に打ち付けたり、相手の体を噛んでしまったりするのです。
これらの行為の理由は、自分の気持ちを上手く表現できない。
また言葉に出来ないため、自分の嫌な気持ちを相手に伝えたいがために問題行動になってしまうのです。
自閉スペクトラム症の傾向があると大人でも子どもでも、行動がマイペースであることが多いようです。
その理由のひとつが、他人の言動や意思に興味を示さないことが挙げられます。
自閉スペクトラム症の子どもさんは一人遊びを好みます。周りは遊びをやめても、一人で遊びを続けることもあるでしょう。
一方、言葉の発達の遅れがない場合、友だちと関わることが好きな子どもさんもいます。
ですが、その接し方は マイペース。話したいことを話して、興味がなくなると話をやめてしまうこともあります。そのため、周りからは自分勝手な子どもさんだと思われることもあります。
また、知らない人に話しかけていく子どもさんもいます。
人懐っこく見えますが、相手の状況を理解していないので、長々と話したり、誰彼かまわず話たりすることもあります。
お店や外に出ると、客側は入ってはいけない場所、触ってはいけないものがあります。しかし、それが理解できず、超えてはいけない境界を超えてしまうことがあります。
ですが、自閉スペクトラム症の子どもさんは、その「超えてはいけない境界」が見えませんし、理解できないのです。
その結果、入ってはいけない場所に入ったり、触ってはいけないもの触ったりしてしまうのですが、そんな行動を無自覚に行ってしまいます。
小学校に入ると、起こることが多いのが、授業中に席を立って、教室を出てしまうなどの行動をしてしまうこともあります。
それも、暗黙のルールが理解できていないから。
ですが、それは「ここでのルールはこれ」と具体的に伝えることで、守ることができるようになります。
自閉スペクトラム症の子どもさんには「常識だからわかるだろ」は通じない。それだけのことです。
必要なことを、丁寧に具体的に伝えていくことが大切です。
自閉スペクトラム症の子どもさんは、喜怒哀楽などの感情の表現が苦手なだけでなく、人の喜怒哀楽の表情を読み取るのも苦手です。
そもそも、人は表情で感情を表現しているということしら気づいていません。
その結果、実は話している相手が不快な思いを表情で伝えても、相手の気持ちに気づかず、自分の話をお構いなく続けてしまうようなこともあります。
それは表情だけでなく、首を縦に振ったらOK。首を縦に振ったらNO。といったジェスチャーすらも意味を知らなければ、その意味に気づかないものなのです。
感情の理解が難しいということは、「何をしたら人を怒らせるのか」、「傷つけてしまうのか」といったことにも気持ちが至らないということでもあります。
例えば、日常生活の中でわたしたちは「善意の嘘」を使っています。相手の服が似合わないなと思っていても、それを口に出すことはほとんどありません。よほど、親しい仲であればそうでもないかもしれませんが、相手に配慮して、不快にさせるのを避けていると思います。
それはある意味、相手に対しての思いやりであるという暗黙のルールであり、無意識にやっていることではないでしょうか。
ところが、自閉スペクトラム症の子どもさんは思ったことを正直に言ってしまいます。
例えば、こんな感じです。「〇〇ちゃんは太っているから、そういう服は似合わないよ。余計太って見えるよ」といったことをはっきりといってしまうことがあります。
その時、相手が嫌な表情をしたとしても、その人を傷つけたことに気が付きません。
思ったことをすべては口にしない。気持ちを表情やしゃべり方、しぐさで、それとなく伝える。
そんな暗黙の了解が常識になっている大人の社会では、自閉スペクトラム症の人は生きづらさを強く感じながら生活していくしかありません。
自閉スペクトラム症の子どもさんは、やさしい口調で怖がったり、大声で怒られても平然としていることすらあるのです。
それが社会に出たときに、どのような影響があるかは、想像できるのではないでしょうか?
歳を重ねると、自閉スペクトラム症であっても、自分が相手に嫌がられていることには気づきます。
ですが、どうしてそう思われるのかという理由は理解できないのです。
自閉スペクトラム症の子どもさんのうち、40%~65%が知的な遅れを併発しているといわれています。
その多くが、言葉の遅れが見られます。また、知的な遅れがなくても、言葉が出るのが遅くなることは少なくありません。
2歳になっても「ママ」や「パパ」といって言葉が出てこないようであれば、言葉の遅れがいると判断して良いといえるでしょう。
また、言葉に関する特徴として「オウム返し」があります。
この「オウム返し」は、言葉や質問の意味を理解しているわけではなく、聞いた言葉を覚えて、それをそのまま口にしているだけ。会話ではないのです。
つまり、言葉が出てきたとしても、会話は苦手なのです。
言葉にできないものの、心の中に思いはあります
自閉症の人が大人になったあとに書いた本などには、彼らの心の中はとても豊かです。
独特の感性があって「何も言わないから何も考えていない」「何もわからない」というの大きな誤りです。伝えたいという欲求もあります。
言葉が出ず、表情にもあらわれにくいと「何も考えていない」「何も感じていない」と思われがちですが、そうではないんです。
むしろ、インプットは過剰ともいわれています。
一方、言葉や表情でアウトプットがうまくできないため、気持ちを抱え込んだり、暴力などの問題行動になったりすることもあるのです。
自閉スペクトラム症の場合、言葉の遅れがなくても、コミュニケーションは上手ではありません。
自分の好きなことばかりを相手が興味があるかないかにかかわらず、一方的に話し続けることがあります。
相手が話を始めても、その話に興味がなければ反応はほとんどありません。
相手の話の内容や意図を理解した上で、自分の考えを伝えることができません。
そのため、議論は噛み合うことはありませんし、話は一方通行になることが多いのです。
自閉スペクトラム症で言葉の遅れがない子には、年齢以上に大人びた話し方をしたり、細かな話を延々話たりする傾向があります。
電車の車内アナウンスや、ホームアナウンスを覚えていたり、お天気キャスターのせりふをよどみなく話すような子もいます。
しかし、話している内容をほんとうの意味では理解していない場合が多いと言われています。
思ったことをストレートに表現することしかできず、気を使って遠回しにいうという感覚はありません。
話すことは出来ても、相手の話を聞いて理解することは苦手です。
つまり、言葉を発するので発達の遅れがなくても、コミュニケーションができているわけではありません。
ですが、それに気づかないので、相手とのトラブルになり、大きなストレスを感じていることもあるのです。
「そこ」「それ」「あっち」「こっち」といった代名詞を自閉スペクトラム症の子たちは理解できません。
ですので、「そこにスマホがあるから取って」と言われても、「そこ」がどこかわからず、対応できないこともあります。
具体的に「ソファー前のテーブルにあるスマホを取って」と伝えましょう。
挨拶代わりに「元気だった?」と言われたとしましょう。
自閉スペクトラム症の子どもさんの場合、「なんで、風邪はひいてないよ」といったように真顔で答えます。
その言葉に、相手が「空気読めないなあ」と返されたら、「空気は吸うものだろ」と答えるのが自閉スペクトラム症の子どもたちです。
つまり、言葉に含まれた複数の意味を理解できないのです。
「元気」の意味は、こんにちはといった挨拶の意味や、健康な状態の確認の意味で使いますが、自閉スペクトラム症の子は、意味は一対一でしか捉えられません。
「元気」=「病気ではない」と理解している子なら、「こんにちは」の意味があるとは思わず、混乱してしまうのです。
自閉スペクトラム症の子には「ちゃんと」は理解できません。
たとえば、「ちゃんと立って」は「背筋を伸ばして、手は体の横につけて立って」のように具体的に言わなければ伝わりません。
他には「片付けなさい」も理解が難しいのです。
片づける順番や、なにから手を付ければよいのかが判断できないのです。
自閉スペクトラム症の子は、耳で聞いたことを画像にして理解するのではという説があり、「きちんと」などの表現は具体的なイメージが浮かびにくいのです。
「食べすぎて、お腹がはちきれそう」というと、言葉通りに捉えて、「大変だ、はちきれたらどうしよう」とパニックになってしまうことだってあります。
たとえば、「あなたは、元気だった?」と質問し、「元気だよ」と聞かれた子が答えたとしましょう。
そして、隣の子に「あなたは?」と聞くと、「元気だよ」と答えたとしましょう。
次に自閉スペクトラム症の子に「あなたは?」と聞くと「わたしは山本花子です」と答えてしまうのです。
定型の子どもさんなら、「元気だった」を省略したとしても、「あなたは元気だった」と同じように聞かれていると理解して、そのように答えることができます。
ですが、自閉スペクトラム症の子どもさんはそれが理解できないのです。
※定型とは 発達障害や知的障害がないこと
小学校高学年あたりになると、友だちの輪から浮いてしまうことがあります。一緒に遊んでもらえなくなったり、意地悪されたりすることもあるかもしれません。
とくに、知的発達や言葉に遅れのない「アスペルガー症候群」の子どもさんの場合、こういったことが起きやすいもの。
というのも、知的な遅れもないし、言葉も話せるので、友だちや周りの人々は、自閉スペクトラム症にある特性によるものだとは思わないのです。
周りの大人も、言えば「行動や言動を変えてくれる」と期待して声をかけるため、口調が強くなりがちです。
これらのことが原因となって、まわりとのコミュニケーションをとることに対して子どもさんが違和感やズレを感じてしまうのです。
特性がある子どもさんは、自分の感じたままに行動し、振る舞っています。
そのため、なぜ叱られているのかが理解できません。
「ダメ」、「違うよ」「それおかしい」、「いい加減にしなさい」と言われても、どうすればいいかがわからないのです。
このような経験が続いてしまうと、
「みんな自分のことが嫌いなんだ」といった被害妄想が強くなってきます。
その結果
「どうせうまくいかない」
「何を言っても伝わらない」というように後ろ向きに考えてしまうこともあります。
このような状況がつづき、歳を重ねていくと、
学校に馴染めない
不登校になる など子どもさんにとっても良くない状況につながってしまいます。
知的障害がない、言葉に問題がない子どもさんほど、このすれ違いや違和感が、被害妄想や自己否定の思いが強くなりがちです
親だけでなく、友だちや学校で関わる大人たちの理解がある環境を作ってあげる必要があるでしょう。
自閉スペクトラム症の子どもさんは、感じ方や反応に偏りがあることが多く、特に聴覚に過敏に反応してしまう傾向がある子が多いようです。
たとえば、大声で話しかけられると怒られたと思ってパニックになってしまうこともあります。
赤ちゃんの頃には、風の音や、別の赤ちゃんの鳴き声で、さらに激しく泣き出すこともあります。
また、特定の音に過剰に反応する子どもさんもいます。
ピアノの音、サイレンの音などです。ほかの子どもさんの甲高い声などにも反応する場合もあります。
総じて、高い響く音で大きな音が苦手です。
そのほかにも、騒音のようなザワザワした音や、運動会で使うピストルの音など、過剰反応する音は様々です。
イヤーマフをつけて、音を遮断するという対策もあるようですが、それは音の多くの刺激を遮ることになり、根本的な対応にならない場合もあります。
問題行動を止めることだけで対策を決めてしまうと、子どもさんの成長を妨げることにもなるので、慎重な判断が必要になります。
音の情報の聞き分けが難しいことも
自閉スペクトラム症の子どもさんは、雑音を強く感じてしまうことがあります。
わたしたちの耳は良い意味で鈍感で、必要な音と認識した音に集中すると、他の音はあまり気にならなくなります。
ですが、特性のある子どもさんは、騒音やノイズがそのまま聞こえてしまうため、スーパーなどのいろいろな音が混ざった環境ではパニックになってしまうこともあるのです。
自閉スペクトラム症の特性によっては、聴覚意外にも、「視覚」、「触覚」、「味覚」、「嗅覚」にも極端な反応をしてしまう子どもさんもいます。
蛍光灯や日光などの明るい光を嫌がったり、白紙に黒い文字などのコントラストのある教科書などが読めなかったりすることもあります。
床屋さんのくるくる回る看板をじっと見ていたり、チラチラと光る電飾をとても気にする子もいます。
とにかく、触られるのを嫌がるのが触覚面での特性です。
抱っこされたり、頭を撫でられたり、握手をいやがる子もいます。
泣き止まないと思ったら、洋服のタグを不快に感じていたり、服の縫い目が肌にあたるのをやがっていたりすることもあります。
また、「圧迫過敏」という症状もあり、やさしく抱きしめられるだけでも恐怖を感じてしまう子もいます。
アメリカの映画で、「500ページの夢の束」では主人公のウェンディにはこの症状があるようで、保護施設の管理者とは実際にはハグをせず、お互いに手の前に、輪を作って、「仮想ハグ」のような方法でお互いの気持を表しているシーンがあります。
実際に抱きしめられるのは嫌でも、気持ちとしてはハグをしたいと感じているのでしょう。
これがひとつの有効なコミュニケーションツールになっていたようでした。
自閉スペクトラム症の子どもさんは偏食の傾向が非常に強く、濃い味付けや、歯ざわりの悪いものは苦手な場合が多いようです。
ときには吐き出してしまうこともあります。
そのため、気に入ったものだけを食べ続けてしまうこともあります。
ニオイについても、拒絶反応を示す子どもさんもいます。
とくに複数の料理のニオイがまじったような、お弁当や給食に不快感を示すことがあります。
一方で、自分の指先のニオイや、枕のニオイなど気になるニオイに執着することも多く見受けられます。
痛みや温度に対して、鈍感な子どもさんも多くいます。
夏なのに、セーターを着ていたり、冬の寒い時期にTシャツだけで外に出たりすることもあります。
痛みついても、ケガをして血が出ていても無反応だったり、虫歯を痛がらなかったりすることもあります。
自閉スペクトラム症の子どもさんは、パニックを起こしてしまうことがよくあります。
泣きわめく、怒るなど、一度かんしゃくを起こしてしまうと、なかなか止まりません。
自閉スペクトラム症の子どもさんがかんしゃくをおこす時には、いくつか理由があるようです。
・独特のこだわりが叶わなかった時
・音や光などで強い刺激を感じた時
・人から関わってほしくないのに、関わってくる人がいた
といったことで突然かんしゃくを起こすことがあります。周囲の人は、原因がわからないこともあり、まわりも対処に困惑することがあるのです。
かんしゃくを起こしているときに、母親が抱きしめたとしても、おさまるどころか、突然、抱きしめられたことで、逆にパニックがひどくなることもあります。
泣き叫ぶのは、自分で混乱した気持ちを処理しようとしている時です。言葉や行動、助けを求めたり、拒絶したりが上手く伝えられないときに、泣き叫ぶことで発散している。
そんな場面が自閉スペクトラム症の子どもさんの場合はあることを理解してあげるしかないのでしょう。
不安や緊張をやわらげるための一つの方法として、同じ行動を繰り返すことがあります。
これは「常同行動」とよばれ、上半身を前後に揺らしたり、その場でくるくる回る、自分の手をひらひらさせるなどといった行動をとることがあります。
これらの行動は、気持ちを安定させる役割があるようで、無理やりやめさせてしまうと不安を感じて、パニックになることもあります。
自閉スペクトラム症の子どもさんは、ものにも強いこだわりを示すことがあります。
ものに対してのこだわりは、石ころなどの、他の人が見てもささいなもので、集めたいと思わないものを収集することが好きです。
その集めたものを、だれかに取られたりすると、怒ってしまうこともあります。
また、バスや車でも座る場所が決まっていて、そこに誰かが座っていると、パニックになってしまうこともあります。
わたしの弟は、重度の知的遅滞と自閉症を持っていました。
まさにこの座る場所については非常にこだわりがあり、家族で車で出かけるときに、自分の定位置に誰かが座っていると、かんしゃくを起こしていました。
自閉スペクトラム症の子どもさんは、ルーティンを好みます。
自分で学校へ通うようになると、同じ時間に起床し、同じ時間に家を出て、同じ道を通って通う。そうすることで、安心して行動することができるのです。
さきほど、ご紹介した「500ページの夢の束」でも、自分が決まった時間に行うことを決めておくことで、心の安定をさせているシーンが描かれていました。
ですが、すべて決まったことができるとは限りません。
映画のシーンで、朝、シャワーを浴びる時間が決まっているのですが、シャワーを浴びることができない環境のときに、「一日だけはシャワーを浴びなくても大丈夫」というルールを決めていたようで、自分の気持ちを安定させるシーンがありました。
実際には、通学路が工事中でいつもの道が通れない場合、回り道をするという発想ができない。また、いつも乗るバスがカラーリングが違うと、「違うバス」と認識して、次のバスが来るまで待ち続けるといったこともあります。
これらの特性は、小学校にあがると、非常にストレスを抱える要因になってきます。
とくに進級時にはストレスが大きいようです。クラスメイト、教室、担任の先生がかわります。
また、ロッカーの利用や持ち物の管理方法なども、担任の先生によってルールを変えることもあります。
こうした変化を受け入れるのが難しく感じてしまうのです。
一方で、いちど習慣や日課になってしまうと、真面目にそれを守ることができます。
たとえば、ゴミ出しなどは、曜日によってどのゴミを出したら良いかなどは正確に覚え、きちんとゴミを出すこともできます。
ですが、ゴミ出しの日が、何かの都合で変わったりすると、混乱してしまうこともあります。
自閉スペクトラム症の子にとっては、変化はストレスです。
変化は不安でしかなく、不安が大きくなってくると、自分の頭を叩くといった自傷行為になってしまうこともあります。
彼らにとっては「いつもと変わらない」が心を平穏に保つ環境なのです。
たとえば、家でカレーを食べる時は、必ずソースをかける習慣があるとしましょう。
その子が給食でカレーが出たときに、ソースがなかったとしたらどうなるでしょう。
その子のなかでは「カレーはソースがないと食べられない」という規則があり、それができないとパニックを起こしてしまうこともあるのです。
そして、そのルールを他の人にも当てはめてしまうのです。
食堂で誰かとカレーを食べるような状況では、自分だけでなく、一緒に食べている人のカレーにもかけてしまうといった具合です。
つまり、「カレーにはソースをかける」という行為が正しい唯一の方法で、それ以外は間違いだと思いこんでいるということ。
その他の状況でも、自分が決めている規則を自分だけで守るのではなく、周りにも同じルールを求める傾向があります。
それは「ルールは絶対」と思っているから
遊びのときに、普段とはルールと違うことを決めて遊ぼうとすると、強く反発することもあります。
臨機応変という言葉が、彼らには理解できないのです。「ルールはルール。守るべきもの」と捉えています。
ただ、「ルールを守ることは大事」というのは間違ってはいません。しかし、「ルールは状況によっては変えたほうが良い」場合もあります。
たとえば、年齢差のある、子どもさんと遊んでいるような状況では、小さい子のための特別ルールを決めるような場面を想像してみて下さい。
小さい子にハンデを与える といったことが、理解できないのです。
このようなトラブルを避けるには、状況によって、ルールの受け止め方が変わるといったことを何度も丁寧に伝えていくしかないでしょう。
自閉スペクトラム症の子どもさんは、一度に複数のことをするのが苦手です。電話しながらメモをとるといったことが上手くできないのです。
また、指示が複数のことになると、混乱してしまうか、理解できないことがあります。
たとえば、「歯を磨いたあとは、顔を洗って、拭いたタオルを洗濯物かごに入れてね」といった指示をしたとしましょう。
歯を磨いた後に、なにをするのかわからなくなって、顔を洗わずに、タオルだけ洗濯物かごにいれてしまったりすることがあります。
こういった指示をするときは
歯を磨いて、終わったら教えて→ 「次は顔を洗って、拭いたタオルは洗濯物かごに入れてね」といったように、その子が理解できるところまで指示をステップに分けると良いでしょう。
自閉スペクトラム症の子どもさんはいつくもの情報を処理するのが苦手です。
それは一度にいくもの動きを組みわせる体育などのときに顕著に出てきます。
球技など、周りの状況に合わせて、体を動かしたりするのが得意ではありません。
また、縄跳びが苦手なのも、この特性が原因の場合があるようです。
これは、時間はかかりますが、運動療育などをしてくれる療育施設で根気強く練習をすることで、多くの運動が得意というほどではないにしても、できるようなります。
この運動でできることが増えたという経験は、他の分野に対しての自己肯定感にもつながりますので、親も含めて、専門家の力も借りながら能力を高めていくと良いでしょう。
運動に関しては、運動音痴と諦めずに、練習することで、子どもさんの将来を変えられる要素といえるかもしれません。
運動療育の効果についてはこちら〜発達障害の症状が運動で改善! 運動療育の効果とは
ここまで、自閉スペクトラム症の子どもさんの苦手なことばかり取り上げてきましたが、実はずば抜けた能力を持っている場合も決して少なくありません。
先程から、なんどか取り上げている「500ページの夢の束」の主役のウェンディは、スター・トレックが大好きです。スター・トレックに関してはすべてのことを知っているのではないかというほどの知識を持っています。まさに得意を超えたずば抜けた記憶力があるのです。
彼女がその知識と記憶を生かして、あるチャレンジをしていくストーリーが映画になっています。
その他にも「鉄道に関することをなんでも知っている」「車の名前と形をすべて覚えている」「過去のある出来事の日付と時間を正確に覚えている」といった能力を持っている子もいます。
また、音楽や絵画などの芸術の世界で、才能を発揮する子もいますが、特徴的なのは、得意と不得意が極端になるということ。
過去の偉人でいうなら、進化論のダーウィンや、アインシュタインなどもASDであったのではと言われています。
しかし、一方で彼らは私生活に問題を抱えていて、特に人間関係の構築という意味では、極端に不得意だったという記録が多くあります。
この突出した能力を勉強に向けられるとよいのですが、自分の興味がないことを覚えるのは苦痛に感じることが多く、その能力を活かしきれないことも多くあります。
自閉スペクトラム症の子どもさんの持っている、興味を知って、その興味につながる経験や他者とのつながりを増やすとよいのかもしれません。
そのためには、自分の子どもさんが何に興味を示すのかを、よく観察していくことがとても大切になってきます。
物事を突き詰めて記憶できる能力は、研究職や開発職などには向いているかもしれません。研究職についている方は、こういうと失礼かもしれませんが、少し「変わり者」の人も多いのが事実ではないでしょうか?
発達障害者の可能性についてはこちら〜発達障害の特性は可能性の裏返しかもしれません
子どもさんが好きなことを、やり続けられる道を、子どもさんと一緒に模索していくのも親と周囲の大人の大切な役割なのです。
自閉スペクトラム症の子どもさんには、それぞれ独特の世界観、感じている世界があります。
まずは、それを受け入れ、理解することがとても重要です。
なぜなら、彼らには「わたしたちの世界」に合わせることがとても難しいからです。
彼らの持っている世界観と「わたしたちの世界」の架け橋をかけるのが、親でありサポートする大人の役割。それが、彼らが傷つきすぎない人生を歩む上で、親ができる支援といえます。
自閉スペクトラム症の子どもさんは、曖昧な表現を理解するのが困難です。
彼らが理解できるように「短い言葉」「具体的な指示」「スモールステップ」で伝えるようにしましょう。
また、話すときは目線を合わせることも大切です。
どうしても伝わりにくい時は、書いてみせるなど視覚を利用するもの良い方法です。
大きな声や体罰はできるだけ避けましょう
どなったり、体罰を与えてしまうと、不安や恐怖をつのらせてしまいます。それで行動が改善されることはあまりありません。
ですが、絶対にしてはいけないことは、時にはしっかりと叱ることも必要かもしれません。毅然と、はっきりと強く伝えることで、子どもは言っていることは理解できなくても、「してはいけないこと」を理解することもあります。
ただ、それは「命の危険」や本当に危険を避けるときだけにしましょう。彼らは、怒鳴られたり、叩かれたりしていることは、彼らは決して忘れないからです。
周りの同世代の子どもさんと比べてしまうと、自分の子どもの成長に気づけないことがよくあります。
小さな「できたこと」をよく見てあげて下さい。そして、何かを教える時、新しいことにチャレンジするときには、「スモールスモールステップ」で。
子どもさんのできるに合わせて、ステップを細かく設定して教えることが大切です。
事実、彼らはできないこともあります。ですが、「できるようになるのが遅いだけ」ということもたくさんあるのです。
確かに特性は消えてなくなるわけではありません。ですが、社会に適応できるようになる、それぞれの子どもさんにあった方法があります。
ほかの子どもさんが1年でできることが、3年、5年とかかるかもしれません。ゆっくりかもしれませんが成長は期待できるのです。